西夏の皇宮、その氷室の中に天山童姥(てんざんどうぼ)と虚竹(こちく)は逃げ込んだ。2人を追っているのは、西夏の皇太妃たる李秋水(り・しゅうすい)。まさか、自ら死地に飛び込もうとは考えまいという読みである。天山童姥はここで息を潜めて時が過ぎるのを待ち、功力を回復させるつもりだった。
三十六洞七十二島の面々から守ってやりたい一心で、虚竹(こちく)は謎めいた少女を背負って逃げた。ひと息ついて彼女の顔を見てみれば、さっきよりも幾分大人びた面差しだ。不思議がる虚竹に投げかける言葉も、大人というよりは偏屈な老人のようにぞんざいな響きがある。その少女は虚竹の右手にはめら […]
丁春秋(てい・しゅんじゅう)率いる星宿派の一団に見つかってしまった阿紫(あし)。一門の宝・神木王鼎を持ち出した言い訳をあれこれと並べていると、そこへ慕容復(ぼ・ようふく)たちが現れた。たちまち手合わせとなるが、丁春秋の技はことごとく慕容復にいなされてしまう。そして、丁春秋の放った […]
虚竹(こちく)を待ち受けていたのは、30年も前に亡くなったとされていた逍遥派掌門・無崖子(むがいし)だった。彼がおもむろに差し出した手に、虚竹の体が引き寄せられる。無崖子は北冥神功の力で、虚竹から少林派の内功を取り除き、代わりに自身が修得してきた武芸と内功を授けるのだった。全ての […]
"星宿老仙"丁春秋(てい・しゅんじゅう)の毒に苦しむ丐幇の一団。その場に行き合わせた少林僧・虚竹(こちく)は彼らを見逃してやってほしいと直談判する。「力ずくで改心させてみろ」と迫る丁春秋だったが、武芸の不得手な虚竹は固辞するばかり。業を煮やした丁春秋は毒掌を放 […]
父と叔父の仇――蕭峯(しょう・ほう)は遼の南院大王になっていた。これでは復讐を遂げることも難しいとうなだれる游担之(ゆう・たんし)。その場を立ち去ろうとした彼は、一冊の書物が落ちているのに気が付く。それは、蕭峯の懐から滑り落ちた易筋経だった。梵字を読むことができない游担之にとって […]
耶律重元(やりつ・じゅうげん)・涅魯古(デルク)親子率いる謀反軍の手に落ちた母や妻子に、自らの命令で矢を射かけた遼国皇帝・耶律洪基(やりつ・こうき)。彼は謀反軍との対決に悲壮な決意で挑むが、敵はさらに多くの人質を用意していた。ひざまずき、家族の命乞いをする将軍たちを前にして、耶律 […]
阿紫(あし)の傷を癒すべく長白山へと足を踏み入れた蕭峯(しょう・ほう)は、そこで女真族の族長・完顔阿骨打(ワンヤン・アグダ)の危機を救う。意気投合し、まるで兄弟のように打ち解けあった2人は、女真族の村へ。族長の命の恩人として、下にも置かぬもてなしを受ける蕭峯。聞けば、女真族は遼の […]
「私が馬大元(ば・たいげん)の妻ではなく、遊女でもなければ、お前は私のことを愛してくれた?」。康敏(こう・びん)の望む答えを返せば、"頭(かしら)"が誰なのか分かる。しかし、蕭峯(しょう・ほう)が「愛する」という言葉を口にすることはなかった。彼の胸にすがりつき […]
段正淳(だん・せいじゅん)と康敏(こう・びん)の声に耳をそばだてる蕭峯(しょう・ほう)。そこへ、阮星竹(げん・せいちく)と阿紫(あし)、秦紅棉(しん・こうめん)と木婉清(ぼく・えんせい)が。彼女たちもやはり、段正淳と康敏の様子を盗み見始めるが、"頭(かしら)" […]
子の刻。雷鳴が轟く中、蕭峯(しょう・ほう)は約束の石橋へと辿り着いた。程なくして姿を現した段正淳(だん・せいじゅん)は、「私もこの時をずっと待っていた」と語る。過去の過ちを認め、すべてを覚悟したかのような穏やかな物腰だ。実の両親と養父母、そして師である玄苦(げんく)大師――5人の […]
「どうしても仇を討たなければ気が済まない?」――阿朱(あしゅ)は蕭峯(しょう・ほう)に問いかけた。段正淳(だん・せいじゅん)は数々の女性を傷つけ、娘たちを不幸にしてしまったことを心から悔いているようだった。何より、自身の本当の父親である。「誤って善人を殺せば、一生後悔するわ」と話 […]
小鏡湖の庵にやってきた蕭峯(しょう・ほう)と阿朱(あしゅ)。2人の耳に届いてきたのは、阿紫(あし)の死を悲しみ、涙にくれる阮星竹(げん・せいちく)の声だった。彼女が話す言葉を聞いた阿朱は確信する――阿紫は自分の妹なのだ、と。守り札に書かれた文字が、何よりの証拠である。天涯孤独の身 […]
阿朱(あしゅ)は、少林寺から盗み出した易筋経の経典を差し出した。蕭峯(しょう・ほう)に、この奥義を習得して"頭(かしら)"を倒し、仇を討ってほしいと語る阿朱。蕭峯はその心遣いに感謝の言葉を述べたものの、盗んだ奥義書で武芸を学ぶことをよしとせず、易筋経を少林寺に […]
「たった今から、俺の名は喬峯(きょう・ほう)ではなく蕭峯(しょう・ほう)だ」――契丹人としての己の出自を受け入れた蕭峯。殺伐とした江湖での暮らしに嫌気がさした彼は、阿朱(あしゅ)を妻として塞外で気ままに生きることを夢想する。そして、2人は大河の流れに夫婦の誓いを立てると、一路、塞 […]
譚(たん)公と譚婆、そして趙銭孫(ちょう・せんそん)が死に、"頭(かしら)"の正体を知る者は3人を残すだけとなった。これ以上大悪人に先手を取られぬよう、卓不凡(たく・ふぼん)のもとへと急ぐ喬峯(きょう・ほう)と阿朱(あしゅ)。しかし、2人が泰安に辿り着いてみる […]
薛慕華(せつ・ぼか)の隙を突いて動きを封じた阿朱(あしゅ)は、得意の変装で薛神医になりすまして逃げおおせた。そのまま雁門関に向かった彼女は、喬峯(きょう・ほう)の到着を待つことに。阿朱は、己の出自にこだわる喬峯ならば、きっとこの場所を訪れて智光(ちこう)大師が語った話の真偽を確か […]
阿朱(あしゅ)の命だけは助けてやってくれという喬峯(きょう・ほう)の頼みを聞き入れたのは白世鏡(はく・せいきょう)だった。"絶縁の酒"を飲み干す喬峯と江湖の英雄たち。やがて、酔った様子の喬峯を手にかけようとした不心得者が撃退されたのをきっかけに、聚賢荘は死の闘 […]
一筋に愛情と信頼を寄せてくれる阿朱(あしゅ)に対し、喬峯(きょう・ほう)もまた身を削るようにして治療と看病にあたっていた。そんななか、喬峯はひょんなことから神医・薛慕華(せつ・ぼか)の消息を知ることとなる。彼は、聚賢荘の游(ゆう)氏兄弟と共に江湖の名士たちを招き、"英雄 […]
出生にまつわる疑問を解き明かすべく、両親のもとを訪ねた喬峯(きょう・ほう)。しかし、我が家に辿り着いてみると、2人は何者かに殺害されていた。そこへ少林寺の僧たちが。彼らは喬夫妻殺しを喬峯の仕業だと決めつけ、挑みかかってくる。喬峯は僧たちに点穴を施して動きを封じると、思い出の丘に父 […]